はじめに
  

国連農業食糧機関(FAO)の3 回目の世界資源調査によれば、1990 年代の森林面積の減少は 940万ha(年率0.22 %)ですが、再造林、非森林地への天然林の拡大や拡大造林があるからで、天然林の減少は年間1610 万ha(年率0.42 %)にも上り、地球規模の森林の状況は1980 年代に比べて改善しているとは言えないと報告されています。こうした状況の中、森林の取り扱いを議論するうえで、広範囲で長期にわたる森林の機能を正しく評価することが益々重要になってきました。東京大学演習林は、1894 年の千葉演習林の創設に始まり、日本の代表的な森林帯に7ヶ所設置され、持続性の原則に基づいた森林管理を行いながら長期にわたって森林生態系観測のデータを蓄積してきました。このデータの重要性も益々増大していると言えるでしよう。また森林の価値を世界に向かって発信することも重要であり、とくにアジア各国との連携を強めるため、2002 年に設立したアジア大学演習林コロキュームの台湾大会に本年も参加しました。
 一方、国内的には国立大学独立法人法が成立し、国立大学は大きく変わらざるを得ない情勢にあります。このことは東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林においてもまた例外ではありません。事務官・技官・教官という言い方も独立法人化することで変りますが、3 者の協カを高め、また7つの演習林の連携を深めることにより、親元の大学院農学生命科学研究科の協カに加え、更に全学に協力を求め、総力を挙げて当たるならば、この課題を転じて福、となすことも可能だと思われます。要は演習林の使命が教育・研究に有り、如何に良き森林を作っていくかに有ることを確認し、それに遭進していくことに尽きるのでしよう。また、東京大学演習林では、これまでにも公開講座や演習林の一般公開など、さまざまな形で地域社会との連携を図ってきましたが、本年度は2つの地元自治体と協定を結びました。今後も地域社会への貢献を続けていきたいと考えています。
 本年報が、森林に関わる教育・研究の発展の礎となり、大学演習林の意義をより深く理解していただくための一助となれば幸いです。


                        2004年3月31日
東京大学大学院
農学生命科学研究科
附属演習林長   
永 田  信