樹芸研究所 概要
1. 沿革と概要
樹芸研究所は、全国に7か所ある東京大学地方演習林の一つです。熱帯・亜熱帯産の特用植物の研究施設として、1943年に現在の南伊豆町青野に民有林241haを購入し設立されました。翌1944年には、現在の南伊豆町加納に0.6haの土地を借り入れ、1947年に木造の大温室と所長官舎が竣工しました。翌1948年には加納に事務所を移転し、地下149mから自噴する温泉を掘り当て温室の熱源として使用を開始しました。
また、2020年に東京大学運動会より移管を受けた下賀茂寮宿泊施設は、実習などに役立てられています。現在、青野研究林、加納観察林の総面積247haの野外フィールドと大温室、2号温室において、様々な特用植物を育成し、それらを教育や研究に提供しています。
2. 立地環境
樹芸研究所の位置する南伊豆町の地質は新第三系中新統の白浜層群からなり、基岩は石英安山岩、ひん岩が貫入岩類で、土壌はやや乾性の褐色森林土です。標高は青野研究林内で約100~500m、地形は複雑急峻です。
気候は、青野作業所の観測点(標高100m)における過去10年間(2013~2022 年)の年平均気温は15.8℃で、年間で0℃以下を記録した日数の平均は17日(初日12月9日~終日3月26日)です。平均年降水量は2,289mmで、降雪はほとんどありません。
3. 森林の特徴
樹芸研究所の森林は暖温帯の照葉樹林帯に属し、潜在植生はシイ・カシです。かつての薪炭林が1960 年頃から放置された林で、スダジイ、アラカシ、ウラジロガシ、シロダモ、ヤブツバキ、イヌガシ、ヤブニッケイなどが混生します。疎開した陽地には、コナラ、オオシマザクラ、ヤマザクラ、ハゼノキ、オオバヤシャブシ、ミズキ、アカメガシワ、カラスザンショウなどの落葉広葉樹が多くみられます。林内にはヒサカキが多く、林床にはリョウメンシダ、ウラジロ、ナチシダなどのシダ類や、イズセンリョウ、フユイチゴ、ヤブコウジ、アリドオシなどが生育しています。2007年頃までアオキが多くみられましたが、シカの被食圧により大きく衰退しました。
青野研究林のうち、スギ、ヒノキなどの針葉樹人工林が23.0%の割合を占め、クスノキ、ユーカリ属、アブラギリなどの広葉樹人工林が27.6%を占めています。約48haにおよぶクスノキ人工林は林齢がおよそ115年ですが、他はほとんどが70年生以下です。
4. 施 設
加納観察林に事務所、大温室、2号温室、講義室、実験棟、下賀茂寮宿泊施設、源泉があり、加納観察林より8㎞離れた青野研究林に青野作業所があります。
大温室は面積が260㎡、高さが7mで、熱源に温泉を使用し室内の温度を17℃以上に加温しています。
現在、大温室では、熱帯・亜熱帯の植物約250 種を栽培・展示しており、カカオ、バニラ、コーヒー、キャッサバなどの馴染み深い熱帯産植物を利用した、様々なアクティビティを東大生や公開講座の参加者に提供しています。
また、温室植物を研究材料としても提供しており、他の団体や個人との共同研究を行っています。2号温室には36㎡の部屋が2部屋(1部屋は温泉で加温)あり、ユーカリ属等の育苗試験に使用しています。
講義室は14畳の和室で実習などに利用できます。下賀茂寮宿泊施設は樹芸研究所を各種実習、研究、研修などに利用する際に最大29名宿泊できます。
青野作業所は研究林管理や利用者の拠点となっています。作業所内の講義室は、野外実習での講義や内業、休憩場所として使用できます。
5. 大学教育
① 全学体験ゼミナール
樹芸研究所では、研究林と温室で育成する特用植物を教材としたプログラムを企画して教養学部生を対象とした全学体験ゼミナールを年数回実施しています。
② 森林実習(農学部国際開発農学専修)
クスノキ人工林の材積調査と植生調査を行って、樹木・森林の基本的な調査方法を習得するとともに、施業計画を立てたり、森林の変遷を予測する方法を学習します。
他にも、農学部や大学院の森林系専修、フィールド科学専修や他学部、他大学の専門的な実習も受け入れています。
6. 研 究
早生樹種の研究
ユーカリ属の過去数十年にわたる現地適応試験を通じて成長旺盛と評価した種を選抜し、それらの造林特性、林業的生産性を評価するために、種ごとに100個体程度からなる新たな試験地の造成を行いました。また、数種のユーカリ成木を、材質特性・物理特性試験に提供しています。
特用樹木に関する試験
樟脳の採集のために115年前に植栽されたクスノキ人工林内では、皆伐萌芽更新試験を行い、樹齢 100 年に達する個体であっても伐採後の萌芽更新・再生が可能であることが示され、継続調査を行っています。
油糧植物であるアブラギリ、ヤブツバキ、ハゼノキについては、これらを教材とする教育プログラムの開発を目的とした研究に取り組んでいます。アブラギリとヤブツバキは、これまでに搾油試験を行っており、必要に応じて搾油手法の改善を図るとともに、得られた油の教育プログラムへの活用に取り組んでいます。ハゼノキは、果実の安定した収穫に向けての栽培試験に取り組んでいます。
温室内研究
温室では、主に教材開発を念頭に置いた研究を行っています。
カカオは、開花・結実などのフェノロジー調査や果実の収穫数や大きさに関する調査などの基礎研究を行っています。
また、収穫した果実を用いて国産カカオの製品利用を探る研究に取り組んでいます。
バニラに関しては、蒴果の新しい簡便なキュアリング法により高品質なバニラビーンズを製造することを目指しています。
他にもキャッサバ、コショウ、ニーム、コーヒー、パラゴムノキ、ビャクダン、イランイラン、ベニノキなど教材としての利用を目指し増殖試験に取り組んでいます。
7. 社会連携
2024年に南伊豆町の農林業の発展および大学における教育・研究の推進に資するため、相互に連携・協力を行う旨の協定を締結しました。2019年からは夏休みに東京大学運動会学生と南伊豆町の子供たちの交流事業を実施しています。また、南伊豆町ふるさと納税を通して樹芸研究所にご支援いただいています。他にも隣接する自治体と連携して地域住民向けの公開講座を定期的に実施しています。