「森の健康診断の10年 愉しくてためになる流域の森のキヅキとマナビ」
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はじめに 日本の国土の3分の2を占める森林のうち4割は、木材生産を目的として人間が植林した人工林です。 その多くは1955~70年の高度経済成長期に植林されたもので、2015年には45~60年生に達しますが、この間の木材輸入自由化、円高、木材需要減少、林業従事者不足・高齢化などの影響により、多くの人工林は儲けを生む財産ではなくなり、手をかける動機が失われたために放置され、背が高くて細い、もやしのような樹木がたくさん生えている状態になっています。このような森は外から見ると緑に見えるため、多くの人にとっては山が緑に覆われているようにしか見えません。しかし中に入ってみると、暗くて下草が生えず、雨粒が土壌を洗い流し、保水力が弱く、崩れやすい森になっています。しかし森林の専門家以外には、この事実はほとんど知られておらず、また、このような森がどれくらいの割合で存在しているのか、専門家や行政も含め、誰も把握できていませんでした。 愛知・岐阜・長野の三県を流れる矢作(やはぎ)川の流域では、2000年に襲来した東海(恵南)豪雨がきっかけとなり、森林ボランティアが中心となって、研究者と組み、2005年から「矢作川森の健康診断」を始めました。これは一般市民が熟練した森林ボランティアの案内で山に入り、科学的かつ簡便な手法で森林の混み具合や植生や土壌などの調査を行い、研究者がその結果を解析して、結果を参加者で共有すると同時に、森林管理のための提言を行う試みです。森の健康診断の意義や可能性、草創期の動きは、第1回矢作川森の健康診断終了直後の2006年に築地書館より出版した『森の健康診断―100円グッズで始める市民と研究者の愉快な森林調査』に詳しく記しました。 矢作川森の健康診断に参加されたことのある方はその成果を確認し、参加してみたい方、興味のある方はこの本を参考に各地域で実施する道を探ってください。本書がきっかけとなって、多くの方が日本の人工林に興味を持っていただけることを編者一同、心から願っています。 矢作川森の健康診断実行委員会 |
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