沿革と概要


 愛知演習林(1,292ha)は、名古屋市の北東約20kmの瀬戸市中心部に位置する事務・研究棟および樹木園(1ha)と2研究林2試験地により構成されています。赤津研究林(745ha)は瀬戸市の東部に位置し、北は岐阜県境の三国山麓から南は猿投山にいたる尾張地域に広がり、東縁を三河地域と接しています。犬山研究林(443ha)は名古屋市の北部約20kmの犬山市東部に位置し、穴の宮試験地(77ha)は瀬戸市の北部に位置しています。新居試験地(27ha)は浜名湖の開口部の西に位置し、遠州灘を南に望む海岸林です。

 本演習林は、東京大学の森林科学研究のなかでも森林理水および砂防工学に関連した実験・実習地として1922(大正11)年に、帝室林野局との間で所管換えを受けて設置されました。4つの量水観測も大正末年から昭和初年にかけて相継いで開始され、今日にいたるまで本演習林の特徴である森林水文学研究の主柱をなしています。荒廃した山地は演習林への移管後、渓間工事・山腹緑化工事が行われ今日ではほぼ全域が緑で覆われています。この間、愛知県瀬戸市や犬山市との土地交換あるいは静岡県新居町からの寄付等の変遷を経て、その時々に応じた研究成果を挙げつつ現在に至っています。さらに、都市近郊林としての立地を考慮し、地域の環境に関する研究と環境林形成の事業が始まろうとしています。

地形,地質,気象

 赤津研究林と穴の宮試験地のほぼ全域は花崗岩を基岩とする黒雲母花崗岩と花崗閃緑岩よりなり、風化は深層に及んでいます。赤津研究林(標高244-692m)は平均傾斜度25゜と比較的急峻で、穴の宮(標高130-272m)は平均傾斜度19゜でやや穏やかな地形です。犬山研究林(標高70-218m)の大部分は新第三紀層からなり、標高差の小さい波状地形をなし、部分的に上部が古生層砂岩です。新居試験地(標高2-8m)は汀線に面した人工の砂丘上に細長く広がっています。 本演習林の気象観測は、量水観測が行われている穴の宮・東山・白坂・新居の4カ所で継続されていますが、白坂(1983-1992)の記録でみると、真冬(12-1月)の気温が2.7℃、真夏(7-9月)が23.9℃、年平均が13.5℃で年降水量約1,800mmの温暖湿潤な気候です。新居試験地は年平均気温で白坂より4℃高くさらに温暖であり、年降水量は白坂とほぼ同じです。

植生

 愛知演習林は温帯下部、暖温帯上部・下部に位置し、確認された樹木は61科274種、生息する鳥類は11目29科88種に及んでおり、いずれも豊富な種数を誇っています。しかし、天然林は存在せず、ほとんどが二次林あるいは人工林です。その林況は創設以来70年以上の歴史のなかで劇的に改良された経過を有しています。赤津研究林と穴の宮試験地を擁する瀬戸地方は、平安時代から陶器の焼成のためにマツ材が消費され、明治期の製陶技術の進歩にともなって更に消費が拡大し荒廃地になったといわれており、一方、犬山研究林は、幕末から明治初期にかけての林政の弛緩による乱伐でほぼ裸地化したとされています。創設当初の本演習林は、赤津研究林は尾根筋がほぼ裸地、犬山研究林と穴の宮試験地は沢筋にわずかに樹木がある程度でほぼ全山裸地、新居試験地は砂地で草木がわずかにみられる程度でした。現在の林況を林種別に示すと以下のようになっています。

(1)天然生林
 天然生林は赤津研究林と一部犬山研究林に存在し、主にコナラ・アカマツ・ヒノキ・コハウチワカエデを上層木とし、中下層にヤブツバキ・ヒサカキ・サカキ等の常緑広葉樹類がみられます。近年続いているマツノザイセンチュウによるアカマツの枯損被害は甚大で、一部を除いて消滅の途にあります。

(2)人工林
 植栽樹種はヒノキ・スギが主で一部マツ・広葉樹です。ヒノキの齢級構成は不法正で、]齢級に偏り、当齢級前後の林分が約60haあります。]W齢級以上の林分は演習林創設以前に植栽されたものです。スギについても不法正で、X-Z齢級が多く、第1次施業計画(1966-1975)が策定された以降に植栽されています。

(3)砂防植栽林
 犬山研究林と穴の宮試験地および新居試験地は創設当時全山ほぼ裸地でした。犬山研究林は、創設から1942年までにクロマツ・ヒノキ・ハンノキが砂防植栽され、1950〜1952年に種々の治山工事や砂防植栽が施工されました。穴の宮と新居試験地においても創設後砂防植栽等が施工され、40余年を経過した現在は全山緑に被われ当時の荒廃の面影はありません。特に、新居試験地のクロマツ林は遠州灘からの飛砂を食い止め、後方に展開する住宅地・農耕地にとって貴重な森林となっています。近年のマツノザイセンチュウによる被害により、植栽したクロマツ・天然生アカマツの枯損が穴の宮・犬山で著しいものの、コナラ・アオハダ・ソヨゴ・ヒサカキなどの天然生の樹種が健在であり裸地化の心配はないとみられます。新居試験地のクロマツは1999年度に激害を受け徹底した処理を行ったものの、今後の動向が心配されています。

(4)苗畑
 苗畑では、創設期から1964年までは主に砂防植栽用樹種の苗を生産していましたが、敷地の移転後は砂防植栽が一段落したことからスギ、ヒノキ苗の生産を行っています。

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